徳島発 幸せここに② 「逆境を開く(1)美波からの風」










映像は、慌ただしく人が行き交う地下鉄の駅の光景で始まった。場面は一転し、海山川へ。画面がメッセージを映す。

都会から飛び出そう!

人口密度は約300倍。片や1万4千人、一方は50人(1平方キロメートル当たり)。東京23区と美波町の比較だ。そんな大都会の真ん中、南青山で8日、美波町の今を伝えるトークイベントが開かれた。

テーマは「サテライトオフィス(SO)ってどうですか?」。美波で地域活性化策を展開する会社「あわえ」と、同調に7月、SOを開設した、オフィス向け不動産の紹介などを手掛ける会社「ヒトカラメディア」(東京)が企画した。

徳島県は地上デジタル放送移行時に、難視聴者対策として光ファイバーによるケーブルテレビ網を県内全域に整備した。これが全国有数の高速通信網をもたらした。働き方を見直そうとする企業の目に留まり、都市部以外のサブ拠点としてSOを構える流れを呼び込んだ。現在、県内のSOは31社。うち美波は今夏3社が加わり、計12社に。SOの先進地・神山町に並んだ。


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美波へのSO進出第1号は2012年5月、セキュリティー対策ソフト開発会社「サイファーテック」だ。同町出身の吉田基晴さん(43)が社長を務める。南青山でのトークイベントで吉田社長は社員らと登壇した。

「故郷に錦を飾りたくなったと言われもしたが、実は全くそうではなかった」

同社は進出前、経営の苦しい時期が続いていた。03年、東京で起業したものの、実績のないベンチャー起業のセキュリティーソフトを買ってくれる会社はほとんどなかった。他社への人材派遣や受託開発で収入を得ながら事業を継続。しかし、08年のリーマン・ショックでその仕事もなくなる。窮地に陥ったが、それまでの懸命の事業継続が功を奏した。「起業から数年も続いているということは本物だろうと少しずつ認めてくれるようになった。同時にスマートフォンや電子書籍が普及し、市場が急速に広がったのが大きかった」と話す。


増加に応じた仕事量に応じ、人を増やしたかったが、IT人材の争奪が激しい東京では苦戦が続いた。当時、吉田社長は仕事の合間に、千葉で米を作っていた。手伝ってくれる人手を募集すると、手を挙げてくれる人が何人もいた。「こういうことを求めている人がいると分かり、SO開設を思いついた」

賭けは当たった。SO開設時の社員は7人。起業から9年かけて2人しか増えていなかったのが、この3年で23人に増えた。応募してくる人材のレベルも上がった。1億円弱だった開設時の売り上げは昨年度2億1000万円に。本年度も増収増益を見込む。

「何を大切にしていく会社かの意思表示だと思う」。トークイベントで吉田社長はSOの意義をこう表現した。東京で働いていると、仕事優先の中で、捨てざるを得ない趣味や生き方がある。仕事との両方をハイレベルで実現できる生き方、東京で捨てていたものを取り戻す生き方。地方なら、それが可能だと呼び掛けた。



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徳島は地域活性化の先進地だ、と評価されることが多くなってきた。葉っぱビジネスの上勝町、SOや人材の誘致に取り組む神山町がその筆頭格だが、この両町以外にも、美波町や三好市でSO誘致や廃校活用をきっかけに人の流れが活発化し、徳島全体の評価を高めている。人口減少に苦しんできた地域に新たな魅力を生み出そうとしている動きを、美波、三好を中心に追う。

(徳島新聞2015年9月29日)