徳島発 幸せここに④ 「半X半IT」










美波へのSO進出第1号、セキュリティー対策ソフト開発会社「サイファー・テック」の吉田基晴社長(43)は、仕事と充実した暮らしを両立させる「半X半IT」との言葉を提唱してきた。

「X」は人によって違う。同社のエンジニア、住吉二郎さん(38)=埼玉県戸田市出身=はサーフィンができる環境を求め、サイファー社と出会った。

サーフィンを始めたのは20歳の頃。東京のIT企業で働いていた時は平日に往復2〜3時間かけて通勤し、休日に茨城や千葉の海を目指した。海のそばで暮らしたいとの思いが強まり、情報を集め、美波を選んだ。

「地元サーファーが親切に案内をしてくれ、すごい安心感を持てたのと、見ての通りの大自然。何より半Xというライフスタイルに力を注ぐ会社の方針に引かれた」と話す。

美波だと平日でもサーフィンができる。朝5時に起き、3時間ほど波に乗り、10時前に出社する。最近は大浜海岸の様子を見ると美波や牟岐、高知県東洋町の波の予測がつくようになってきた。

   ◇   ◇   ◇   ◇

移住前には思ってもいなかった「X」もいくつか生まれた。その代表例が秋祭りだ。美波には太鼓屋台が海になだれ込む日和佐八幡神社の伝統行事が毎年10月にある。

2012年9月に移住した住吉さんは住民に誘われ、翌月の祭りに参加した。年齢や地区を超え、多くの人の協力で成功させる一体感と豪快さに地域が持つ力を感じた。以来、毎年、運営に関わり、4回目の今年は地区の責任者に指名された。

地元阿波踊り連にも入った。これも「X」だ。5月に地元の女性と結婚もした。「海辺での生活、プラス、阿波踊り、秋祭り、結婚…。それでいて仕事も第一線でやらせてもらっている。追い求めていた生活がここにあった」と口にする。

地域活性化支援会社「あわえ」の山崎一平さん(26)にとっても秋祭りは重要な存在。美波が地元の山崎さんは、大阪で就職後も祭りが近づくと長期休暇を取って帰郷した。大阪で就職したのは、大学で学んだデザインを生かせる場が古里になかったから。「あわえ」が起業し、門をたたいた。「誰かがやらないと祭りが続かない」。伝統を守る使命感が口をつく。「最高の日々」。美波での生活をそう表現した。

   ◇   ◇   ◇   ◇

5月から美波で働くサイファー社のエンジニア、藤岡祐さん(30)=北海道旭川市出身=の「X」は農業。大分で過ごした大学時代、サークル活動で田舎暮らしを体験し、地域住民が学生を喜んで迎えてくれる温かさに触れた。それを機に農業を手伝ったり、泊めてもらったりする関係が続いてきた。

暮らしの一部として農業をしながら、ITの仕事をする。夢見た「半農半IT」の生活を美波で手に入れた。社屋隣には会社の水田がある。藤岡さんは出社前に水田を見て回り、昼休みには社屋裏の畑に植えた野菜に水をやる。9月からは近くの棚田でソバ栽培も始めた。美波の道の駅で気になる野菜を見つけると、栽培農家に話を聞きに行く。「うれしくて、うれしくて」。自然と笑みがこぼれる。

「移住ってハードルが高いと思っていた。けど、ここの人たちは新しい人が来たら『じゃあ飲むか』と言ってくれる。最初だけかと思ったら、だんだん回数が増え、どんどん仲良くなれる。先輩たちが築いてきた信頼関係のおかげ」。先輩たちがそうだったように藤岡さんも秋祭りに参加する。「この町で生きていきたい」。充実感が言葉ににじんだ。


(徳島新聞 2015年10月2日)