SOの進出が続くなど、美波町に新しい人の流れが生まれています。2012年5月に第1号のSOを開設したセキュリティー対策ソフト開発会社「サイファー・テック」の吉田基晴社長(43)=同町出身=に話を聞きました。(聞き手=編集委員・門田誠)
———9月8日、吉田さんが社長を務める地域活性化支援会社「あわえ」などが主催し、東京でSOの意義や働き方に関するトークイベントを開いた思いは。
吉田:自分がいいと思っていることを他人に知ってほしいというのがベースにある。それと、スキルアップを含め、転職できる環境をつくるのがサイファー・テックの社長としての役目だと思っている。
「半X半IT」というのは、遊びも仕事も高いレベルで欲張りに手にしようという思い。ダウンシフト的な発想ではない。現時点で12社あり、選択肢になりつつあるものの、まだまだ社員が大好きな美波で自分のスキルをより生かす転職ができる環境かというとそうではない。
進出企業を増やし、この環境を整えることは、半X半ITを提唱し、人を呼んだ私のミッションの一つだと思っている。
———イベント開催の手応えは。
吉田:例えばSOというのはこういう会社でありたいという意思表示だという話をした。参加者にアンケートに回答してもらったが、そういう伝えたかった部分が届いている感じだった。
東京と田舎、どっちがもうかりますかという比較は「幸せここに」ではなく「利益はどこに」だ。SOの開設が幸せにつながらないと何の意味もないと考えて取り組んできた。共感してもらえていると感じた。
———半X半ITという発想はなぜ生まれたのか。
吉田:おいしい物を食べたいとか、家族と豊かな生活をしたいという仕事をする根源的な意味が、現代は遠くなりすぎ、目の前の努力が何をもたらすのかがよく分からなくなっているのではないか。
美波に進出する前、仕事の合間に千葉で米作りをしていた。リーマン・ショックの後で私が一番疲弊していた頃だった。米作りで春から土を耕し、草抜きをして、一生懸命取り組んでいても、台風で駄目になる年もある。春から努力していないと絶対に実りの日は来ない。でも努力したから実るわけではないという、すごく当たり前のことを気付かせてくれた。
仕事に悩み、自己否定すらしていた時期だったが、その気づきのおかげで楽になれた。この学びを日常的に得られる場があればいいなと思い、半X半ITを思いついた。
———SOで働くと、仕事の効率が上がるという声を聞く。
吉田:東京だと会社周辺の住民を誰一人知らないが、田舎で暮らすと地域との関わりが生まれる。仕事と両立させるうえで、しなくていい仕事は捨て、やらなければならないことはもちろんする。
頭を使い、仕事の取捨選択をするようになる。何のために働くのかという原点にも気づく。これが能率、効率を高める環境を生んでいるのではないか。
———吉田社長にとっての「X」は。
吉田:これさえあればというのは、以前は釣りだった。今はこういうライフスタイルを実現できる土俵づくりが自分の「X」だ。これからも挑戦を続けていく。
(徳島新聞2015年10月10日「とくしま発 幸せここに 第11部 逆境を開く ⑥吉田社長に聞く」)